あたらしくてなつかしい経済の物語り(3)「(閑話休題)なぜ、染めるのか」

文・冨田貴史
絵・Karri Tree Design
構成・三宅洋平


紙を麻炭染めしたり、茜染めしたりしてみたり。

石油由来の化学染料が開発される前は、

すべての顔料、染料は天然だった。

自然素材、草木染めという言葉は、化学繊維、化学染料が普及した後に出来た言葉。

紅色は紅花から取り、茜色は茜の根から、臙脂色は樹木に寄生する臙脂虫から、丹は丹砂から取ってきた。

花には花の、根には根の、石には石の、炭には炭の働きがある。

たとえば朱は鉱物。

鉱物つまり石や岩は、人よりずっと寿命の長い長老みたいな存在だから、

長くずっと守るべき約束を交わす際には朱印を使ったりしていたらしい。

天然のメディスンの働きを理解し、その力を取り入れる。

天然の顔料で書いた文字や絵、天然の染料で染めた衣服。

天然のメディスンに囲まれた暮らし。

そこから遠く離れて、あらためてその価値、ありがたみを実感している今。

なぜ染めるのか、と聞かれても困ってしまうくらい本能的に、気づいたらそこに立ち、自分が染めているのか自分が染められているのか分からないような感覚を持ったまま手を動かしている。

そして確かに、自分の中の乾いていた部分が、目に映り鼻に薫るそのメディスンによって潤されていくことを感じる。

遠く離れたからこそわかるありがたみ。

五感の喜ぶ方へ、引き寄せられているのか引き寄せているのか分からないままに、これからも手を、足を、動かしていくのだろうか。


■冨田貴史 http://takafumitomita.blogspot.jp/

京都在住。ソニーミュージック~専門学校講師を経て、全国各地で年間300本以上のイベント・ワークショップを続けている。ワークショップのテーマは暦、エネルギー、手仕事(茜染め、麻褌、鉄火味噌など)自家発電など。大阪中津にて養生のための衣食を自給する冨貴工房を営む。また、疎開保養「海旅キャンプ」主催団体「21st century ship 海旅団」代表代行。『原発事故子ども・被災者支援法』を活かす市民ネット代表。

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