1945年9月2日、東京湾に停泊したアメリカの戦艦ミズーリ号で降伏文書調印式が行われました。
降伏文書調印式は、英語ではsurrender celemonyといいます。
surrenderの意味は、強制や要求によって明け渡すとか、手放すとか、自首するとか、放棄するというもの。
当時のアメリカ大統領トルーマンは「日本の首都から見えるところで、日本人に敗北の印象を植え付けるために(略)アメリカ艦隊のなかでもっとも強力な軍艦のうえで調印式を行う」と語っています。
(写真:Lieutenant General Sutherland correcting Japanese surrender document, 2 Sep 1945, World War II Database)
実際、この日以降、日本は降伏文書に書かれた内容を飲んで、アメリカ政府による占領政策の配下に置かれるようになりました。
降伏文書には、
「日本のすべての官庁および軍は降伏を実施するため、連合国最高司令官の出す布告、命令、指示を守る」
「日本はポツダム宣言実施のため、連合国最高司令官に要求されたすべての命令を出し、行動をとることを約束する」
ということが書かれています。
日本政府は「連合国最高司令官からの要求にすべてしたがう」ことを約束したのです。
第二次大戦後、約6年半の占領期にも、日本には天皇や政府が存続しています。首相もいます。しかし天皇や首相がみずから国の方針を考え、政策を出していたわけではないのです。
ー『戦後史の正体』孫崎享
【降伏文書調印=占領政策の始まりの日】
東京湾沖に停泊したミズーリ艦の上で行われた「降伏文書調印式」
この日が、国際的に認識されている終戦の日と言われています。
(写真:wikipedia「日本の降伏」リチャード・サザランド中将が見守る中、降伏文書に署名する重光葵外務大臣、右は随行の加瀬俊一)
そしてこの日以降、降伏文書に基づく形で、アメリカによる占領政策が本格的に始まっていきました。
GHQ(連合国総司令部)は、政治・経済だけでなく、様々な分野に対して、日本政府に指示を出しています。
以下はその例です。
・大本営廃止
・輸出入
・外交領事
・文化財保護
・農地改革
・公職追放
・言論・出版・通信
・新聞・ラジオ
・政治的・宗教的自由
・神道のあつかい
・教員の適格性
・商業および航空
・政党のあつかい
・金融取引
・証券取引所
・教育
・外国商社の位置付け
・年金
・歴史や地理などの教育
・刑事裁判管轄・民事裁判管轄
などです。
そのなかでもとりわけ、戦犯の処理については、いち早くことが進むと噂され、保身のために動く政治家や官僚は後を絶ちませんでした。
当時、皇族代表として敗戦処理内閣を組閣した東久邇宮稔彦王は、自身が戦犯とされることを逃れるよう奔走した影響で、逆にGHQとの関係を悪化させ、54日間で辞職しました。
その後は、アメリカの言うことはすべて飲むというスタンスを確立させた幣原喜重郎内閣と、吉田茂内閣が続きました。
とりわけ吉田茂は、GHQの諜報担当(非合法手段による情報収集や政治工作担当)でCIA設立にも関与したチャールズ・ウィロビーの元を頻繁に通って、彼の意向に沿った組閣を行っていたことがわかっています。
吉田内閣は、サンフランシスコ講和条約が結ばれ、日本が再び独立した後も政権を執っていたため、その後も日本の政治・経済は、常にアメリカからの指示や圧力の元に置かれるような構造になりました。
その後の日本の政治は「対米追随路線」の内閣がアメリカから優遇され、アメリカの傘下を外れようとする「自主路線」の内閣が生まれると、様々な形で圧力がかけられて潰される、という歴史を繰り返しています。
この辺りの歴史を、「高校生でもわかるように」という視点で書かれた本が『戦後史の正体』です。
著者である孫崎享さんは、元外務省の高官で、アメリカがイラクに仕掛けた戦争に違和感を覚え、歴史を丁寧に掘り起こす作業を始めたと言います。
この本を読むと、占領政策が遠い昔の思い出ではなく、今の政治・経済と分かちがたくつながる、いわば「原点」のようなものだということがわかってきます。
2000年以降の、小泉政権下における対米追随路線の加速、憲法改正への流れ、鳩山内閣が潰された理由と経緯、その後のTPP参加への流れなども、大局的につかむことができます。
そしてその流れは、コロナ禍と呼ばれる今にもつながっていきます。
対米追随の流れ、グローバル企業群からの経済的・政治的圧力、製薬会社(※)からの圧力、諜報活動や監視活動などの非合法手段による政治介入などの流れは、今突然降ってわいてきたものではなく、戦後という一つの流れの中で起こっていることだということが見えてきます。
(※国際的に活動する製薬会社の中には、元化学兵器製造企業も少なくない。日本の731部隊は戦犯として投獄される代わりにアメリカの指示のもと日本の厚生労働省と製薬会社の管理を執り行ったと言われている。)
今ここにある世界を見直す上で、歴史の流れをひとつひとつたどることは、とても大事なことだということを、改めて実感します。
孫崎さんは「アメリカ政府は、自国にとって都合の悪い政権が生まれると、あらゆる手段を講じて潰しにかかる。」と書かれています。
その一方で「次にどんな政権が生まれるか、まではアメリカも介入しきれない」とも書いています。
そういった考察を踏まえて、孫崎さんは「自分たちの意思を通そうとする政権は潰されるかもしれない。でも、潰されたらまた生み出せばいい。それを何代も繰り返していればアメリカも諦める。実際にカナダ政府はそうやって、アメリカからの圧力に屈せずに自主路線を貫く自立した政権を樹立することに成功した。」と語っています。
少し話が飛びますが、BLACK LIVES MATTERの動きは、奴隷制度に反対する運動やマーチンルーサーキング、マルコムX、ブラックパンサー党の運動などの歴史の延長線上にあるものと言っていいでしょうし、今デモや抗議を行っている人たちの中には、そういった歴史の流れの中に自分を位置付けている人も少なくないのではないでしょうか。
歴史につながることで「わたしはひとりではない」と思えたりします。
国境を越えて、世代を越えて、仲間がいることにも気づけます。
どのような政治を望み、どのような経済を望むか、ということを考え、自分の足元を見つめるうえで、歴史の流れを捉え直すこと。
そのプロセスが、過去と未来をつなぐ今に、私たちをグラウンディングさせていく助けになるように思います。
読書の秋にぜひ、「戦後史の正体」読んでみてください。
そしていつか、一緒に語り合いましょう。
未来への希望をかたわらに。
(記事担当:冨田)
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