あたらしくてなつかしい経済の物語り(5)「なぜ、いま鉄火味噌なのか (後)」

文・冨田貴史
絵・Karri Tree Design
構成・三宅洋平

「風の民」

江戸時代が始まった頃に鎖国が行われた理由の一つは海賊の活動を制限するためだったと言われています。海賊は自由に海に出て魚や貝や海藻をとり、法定通貨(金貨や銀貨)を介さずに経済を回してしまうため、年貢の取り立てによって幕府の財政を支えていく上での「目の上のたんこぶ」のような存在でもありました。幕府としては、大地主の傘下に管理された上で小作人としてこつこつ働いてくれる従順な農民を育てたかったわけです。

江戸時代が進むにつれて幕府の財政は厳しくなり、年貢の取り立てが厳しくなっていくにつれ、海賊を始めとする「土地や仕組みに縛られない自由人」は、まわりの農民からも「あいつらだけずるい」といった声を浴びせられ、差別を受けるようになっていきます。

一方で、山間部や谷間の地域の人達は社会情勢や他地域の動きを知るために、自由に土地土地を渡り歩く海賊や旅人を今で言う市民メディア、オルタナティブメディアのように重宝し、彼らが立ち寄ると味噌や鉄火味噌、塩や味噌、炒り玄米のような携行養生食を持たせていたそうです。


陽性のエネルギー

この鉄火味噌の特性を一つ挙げるとしたら、極陽性の力です。

陰陽理論に基づく視点から見ると、陽性のエネルギーは求心、集中、凝縮、集める、引き締める、またはその状態を維持するような働きを持っています。

歩き続ける事、考え続ける事による疲労が解消されたり、気が散ったり、気が緩みすぎた時にその気を引き締めなおす助けにもなります。このような陽性の性質を維持することで、集中力や根気のいる仕事を持続するための心身を育てることができます。また、現在増え続けている放射性物質や電磁波はその名のとおり放射や拡散、遠心の力の強い極陰性のエネルギーを持っており、身体に取り込むことで、疲れやすさ、だるさ、集中力の欠如、冷え、むくみといった陰性症状を促進し、免疫力を低下させる力を持っており、鉄火味噌などの陽性の食品はこれらの陰性症状を中和することができます。

鉄火味噌に使われる長期熟成豆味噌は、米糀(こめこうじ)や麦糀(むぎこうじ)を使う米味噌や麦味噌よりも陽性で、さらに長時間寝かせる事で陽性は高まります。この豆味噌に牛蒡、蓮根、人参といった根菜類を1mm角以下に小さく刻んだものを合わせて、3時間以上弱火で丁寧に炒めます。根菜類は地球の中心に向かって伸びる陽性の野菜。この根菜を細かく刻むことによって火が通りやすくなり、さらにその陽気を高めることができます。

また、これら根菜類は免疫力の要である「腎」に生命力の源の「精気」を養うことができます。腎の働きがよくなると全身の水の循環もよくなるため、むくみや冷え、水毒から起こる呼吸器疾患なども改善されます。腎は内分泌系も司っているので、その衰えからくる足腰の冷えや記憶力の低下、認知症、気力や体力の低下といった老化現象全般が解消されます。また、牛蒡のリグニンや人参のベータカロチンには制ガン作用、蓮根のタンニンには呼吸器系を整える働き、長期熟成豆味噌に含まれるメラノイジンやサポニン、レシチンには体の酸化を食い止める働きがあり、酸化や老化を促す放射線の影響に対して有効だといえます。


旅人には優れた携行食が必須

話を戻すと、時の海賊や旅人のように土地土地を訪ね歩きながら情報や知恵をつないでいく人たちの存在はこれから、マスメディアの報道などに疑問を感じる人たちの情報源としてどんどん重要になってくると思います。昔でいうところの富山の薬売り、琵琶法師、旅芸人、飛脚のような存在は、今で言うところのバックパッカー、市民ジャーナリスト、カフェやバーを回る旅人ミュージシャン、野外フェスや祭りを渡り歩く若者達のようなもの。彼らのような、体制にまつろわず、自由な感性とヤーマンな意識で人と繋がれる存在が、オルタナティブな情報や物資の流通にとってのある意味での要になっていくのではないかと思うのです。

しかしながら、彼ら(僕も含めて)旅人にとって日常の健康管理はなかなか難しいものです。どの町を訪ねてもコンビニやチェーン店が立ち並び、そこで提供される料理のほとんどが化学物質や合成調味料によって調理されています。旅をしながらクリアな意識と健康な身体を維持するには、自炊を心がけるだけでなく、鉄火味噌のような携行養生食を持ち歩くことも大切なこと。これらの養生食品が各地のゲストハウスやオーガニックカフェで「養生スタンド」のように補給出来たらどんなにいいか、と思います。


集まって手作りする「場」から生まれる

近年、都市部においてもトランジションタウンやアーバン・パーマカルチャーなどの広がりを通じて「都市生活の中でできる持続可能な暮らし」を嗜好する人の数は増え続けています。また、2011年3月11日の福島第一原発事故をきっかけに暮らす場所や暮らし方そのものを見直し続けている人達の動きは、新しいライフスタイルの模索と実践のうねりを作っています。それに伴って増えている「ものやスペースを共有しあう取り組み」としてのシェアハウスやシェアキッチンでは、味噌作りやマクロビオティックの実践、そして放射能対策になるような食品を共同作業で作るような取り組みが各地で広がってきているように思います。

鉄火味噌作りは最低でも丸一日はかかる作業です。各地でワークショップをやっていて感じるのは、作る前には「えー!そんなに時間かかるの!」と不安を口にしていた人達が、作業が終わったあとに「やるまでは大変だと思ったけど、集中して楽しい時間が過ごせました」というような前向きな言葉を語るように変化することです。野菜や味噌が作業過程で陽性のエネルギーを帯びてくるにつれ、作っている人自身の中の陽気がどんどん引き出されていくのです。時間をかけてじっくりと熱を入れていく事で、陽気を高めることができます。焦らずじっくり向き合う姿勢、根気、粘り強さを養う取り組みが地域の中で続いていけば、その地域にはどんどんタフさや粘り強さが備わっていくのではないでしょうか。そういったローカルに根ざした暮らしの中での力強い実践が、地域と地域をつなぐ動きを養生していく。土の民と風の民がお互いを支え合い、縦糸と横糸が力強く織り込まれ美しいタペストリーを生み出していく。鉄火味噌の文化が広がる先に、そんな未来が透けて見えるような気がしています。

参考文献:「内部被ばくから家族を守る食事法」著:岡部賢二

次回 第6回は、「ザ・味噌づくり(1)」を予定しております。

*二十四節気ごと、およそ15日に1度の連載となります。

■冨田貴史 http://takafumitomita.blogspot.jp/

京都在住。ソニーミュージック~専門学校講師を経て、全国各地で年間300本以上のイベント・ワークショップを続けている。ワークショップのテーマは暦、エネルギー、手仕事(茜染め、麻褌、鉄火味噌など)自家発電など。大阪中津にて養生のための衣食を自給する冨貴工房を営む。また、疎開保養「海旅キャンプ」主催団体「21st century ship 海旅団」代表代行。『原発事故子ども・被災者支援法』を活かす市民ネット代表。

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