■暮らし方の転換
SPEND SHIFT。
消費動向から世界を変えていく。
三宅商店の大事にしているこの価値観は、衣食住のあらゆる局面の中で私たちが行う一つ一つの選択が、世界そのものに大きな影響を及ぼしているというリアリティから始まっています。
エコロジカルな暮らし、オーガニックなライフスタイル、環境に負荷をかけずに暮らしたいという願い。
海や山や土や風との関係性を、日々の暮らしの中で見つめ直すライフスタイルを願う人達によって広がった「エコロジー」「オーガニック」といった言葉は、ブームや流行で終わることなく、より広く、より深く、浸透してきているように思います。
人と人がつながりあいながら、それぞれの価値観や具体的な実践のあり方を共有しあう輪が生まれ、自然とのつながりを見つめなおすような暮らしにシフトしていく道のりが、少しずつ具体的な形で描けるようになってきたようにも感じます。
そしてそのような流れと並行するように、日本の伝統文化を見直す風潮も高まってきているようです。
着物を始めとする和装を取り入れた暮らし、日本食や食養生の実践、生け花や茶の湯といった古くからの日本文化を現代の生活に取り入れる風潮も高まってきています。
そして、江戸時代まで使われていた道具としての暦(こよみ)にもスポットが当たりはじめました。
最近では、書店や文具店の軒先に旧暦を取り入れた手帳、カレンダーが並び、暦や歳時記、季節の風習などに関連する書籍や雑誌を目にすることも珍しくなくなってきています。
■日本の風土、日本の暦
現在、世界のほとんどすべての地域で共通のカレンダーとして使われている暦は「グレゴリオ暦と呼ばれるもの。
日本で「西暦」と呼ばれるこの暦以外にも世界には数限りなくたくさんの暦が存在します。
そしてそれらの暦の仕組みは、それぞれの地域の気候風土や暮らし方の違いにあわせて作られているものです。
私たちの暮らすこの日本列島は、大きな陸地の端であり、同時に大きな海の端でもあります。
その影響で日本列島は、大陸性の気候と海洋性の気候の両方の特徴を持っています。
さらにこの列島は北極と赤道のちょうど中間あたりに位置するため、暑い季節と寒い季節の両方を持ち合わせています。
そのような地理的な要因があいまって、日本列島は世界の中でもとりわけ気候や気象の変化に富んだ地域になっており、古くからこの列島に住む人達は、気候や季節を読むことに熱心であったと言われています。
紀元前のころには、この細やかな自然変化を読むための道具として、季節の節目ごとの日の出と日の入りの方角を示す「環状列石」をはじめとする日時計を使って、狩猟や漁猟、穀類の耕作の時期を知る目安にしていたと言われています。
そして人々は、桜の開花や残雪の形の変化、鳥や獣や虫の生態の変化などを記録していました。
そのようにして、身のまわりの自然界に起こる変化を代々に渡って記録し続け、その記録の蓄積から、季節のめぐりの中でこれから起こるであろう自然の変化を予測し、準備、支度するためなどに使う道具として受け継がれてきました。
■星の運行と暦
土地ごとの気候風土に合わせて作られた暦は、気温や地温、湿度や日照量などによる、自然の移ろいを表すメディアのようなものです。
暦の中に記されている様々な周期は、太陽や月、地球といった星の回転や、それに伴って起こる自然現象を記録したものです。
私たちの毎日の暮らしは、太陽のもと、宇宙のもとにあり、私たちはそれら自然の循環の一部。
地球上で生命活動を営む生き物たちは、これら星の回転による周期に寄り添うように姿かたちを変え、ライフスタイルを変えながら、季節にあった生命活動を営んでいます。
そして、旧暦(和暦)と呼ばれる日本の暦は、太陽と月のめぐりをもとにして作られたもの。
この暦は、星のめぐりの中で営まれる生態系の変化についての観察記録であり、同時に未来を予測したり計画を立てるための指針とされてきました。
地球が太陽のまわりを公転する間に、太陽の光の当たり方は変化していきます。
太陽の光の当たり方が変化することで、昼の長さと夜の長さが変化し、地温、気温が変化し、湿度や気圧が変化し、それによって生命活動の様子が変化していきます。
■四季と五季、土用
太陽の光の当たり方の変化は、その土地によって雨季と乾季を生み出したり、東アジアにおいてはさらに細かく「春」「夏」「秋」「冬」による「四季」の変化を生み出します。
「春・夏・秋・冬」という四つの季節と、季節と季節の変わり目にある約18日間、合計で約72日間ある「土用」をあわせて、日本では一年を「五季」と捉えてきました。
この「五季」という考え方は、古代中国で始まった「五行説」から生まれたもの。
五行説とは、世の中にあるあらゆる物象は「木火土金水」の五要素のどれかに当てはめることができ、これら五要素は常に相互に影響を及ぼしあって循環、変化し続けているという考え方です。
その後の長い年月の中で、五行説は暮らしの中に取り入れられ、応用されてきました。
そのような歴史の中で「あらゆるものは、死して土に還り、土から生まれいづる。土こそが、万物を生み出す根源である。」と考える『土王説』が生まれました。
そして「土」の気は「場全体」および「全体の中央」を表すようになりました。
土用はちょうど季節の入れ替わりの時期であり、前の季節のエネルギーがピークを迎えているとき。
土用はこの「それぞれの季節の終わりの時期」にあたる約18日の期間です。
季節の終わりは、季節のピーク。
暑さが極まればそこから涼しくなり始めますし、寒さが極まればそこから温かくなり始めるように、ピークとは「極まって転ずる時」です。
夏の土用は、暑さが極まって転ずる時であり、一年の中で最も暑い時です。
(夏の土用=7月20日頃~8月7日頃 )
冬の土用は、寒さが極まって転ずる時であり、一年の中で最も寒い時です。
(冬の土用=1月17日頃~2月3日頃 )
■体の中の土=肚
生命は土の中で微生物によって分解され、新たな命の為の栄養となります。
そして生命は、土から生まれます。
体の中の土は、肚。
「月」+「土」と書いて「肚」となります。
そして五行説において「土」に相当する内臓は「脾」です。
東洋医学において「脾」は内臓そのものというよりは、内臓の"働き"のこと。
脾の働きは、消化したり、消化したものを体中に分配する働きです。
この「脾」の働きを支える主な内臓は「膵臓」と「胃」といった消化器官です。
そして「土」に当たる味は「甘」です。
「脾」「胃」は化学精製した砂糖などの強すぎる「甘」味によって弱ります。
そして、自然から生まれた甘味は脾の働きを助けます。
江戸時代には、胃腸が疲れやすい夏の終わりの土用の頃、自然の甘みを加えた枇杷茶や玄米甘酒などを飲む風習があり、町の辻(交差点)にはおかもちを肩に担いで甘酒を売る「甘酒スタンド」のようなものがあったと言います。
■夏の土用に消化を助ける
体内の酵素は消化酵素と代謝酵素に分ける事ができます。
消化は、炭水化物やタンパク質、脂質を分解し、栄養素を作り出す働きのこと。
代謝は、体温や血圧やpHを調整したり、体の組織を作るなどの働きのこと。
一日の中で作られる体内酵素の量は決まっています。
消化に負担がかかると、代謝に使える酵素の量が減ってしまいます。
夏は体温調整や発汗、血液を作る造血など代謝にエネルギーを使いたい時。
この時期に消化に負担がかかることで夏バテが起こりやすくなります。
この時期は、いつも以上に消化にいいものを食べたり、消化を助けるようなものを食べたり、よく噛んだり、といった形で、消化に負担をかけないことが大切です。
例えば、味噌や玄米甘酒が甘みを持っているのは、コウジカビの持つアミラーゼという酵素によって、お米の中の炭水化物が分解されて糖分であるグリコーゲンが生み出されているから。
唾液の中の消化酵素であるアミラーゼが炭水化物を分解して甘みを作り出すように、コウジカビのアミラーゼによってすでに消化が行われているということです。
味噌、甘酒、糠漬け、梅干しなどに含まれる糀や乳酸菌、酵母といった微生物は、アミラーゼ、ラクターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼといった消化酵素を持つものが多く、消化に負担がかかる季節に好んで取り入れられてきました。
■土用と養生まとめ
土用に対応する内臓:脾、胃
内臓に対応する色と味:黄と甘
土用のおすすめの食品:
噛むと黄色く甘くなる穀物…玄米、稗(ひえ)など
黄色みを帯びて甘みのある天然の発酵食品…味噌、沢庵、玄米甘酒など
火を入れると黄色く甘くなる季節の野菜…かぼちゃ、玉ねぎ、甘藷(さつまいも)など
■夏の土用のお薦めアイテム
※以下は例です
・玄米甘酒
・玄米糀
・酵母ドリンク
・味噌
・沢庵
By 冨田貴史
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