生命は土の中で微生物によって分解され、新たな命の為の栄養となる。
土は死滅を促進する一方で、命の生育を促進する。
終わりゆくものを終わらせて、生まれ出ずるものを生まれさせる。
停滞を壊し、新生を育み、循環を促す力。
地球の回転、生命の循環の中央に座する力が「土」。
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これは陰陽五行という考え方の中の「土」に関する解釈です。
土用は、季節が終わり、季節が始まる頃。
その、つなぎ目の頃。
その頃を、土の力が盛んになるという意味の言葉である”土旺用事”を略して「土用」と言います。
そして今日からの19日間が、夏の終わりである「夏の土用」です。
※今がどんな時か、詳しくはこちらをごらんください
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ある季節が終わる頃、というと、それまで演奏していた曲が静かにフェイドアウトしていくようなイメージが湧くかもしれませんが、実際は、季節のクライマックスです。
ライブでいうと最後の3曲、みたいな、演奏者もオーディエンスもエネルギーを出し切ろうとして盛り上がっている頃です。
夏の土用といえば、夏にちなんだ楽曲を奏でまくって、浴びまくって、体も心もホットにグルーブして、「ずっと夏が続くんじゃないか」と勘違いするくらいの頃に「めっちゃ盛り上がってますけど、そろそろ終わるんで」という案内が舞台袖や次の出演者の楽屋に入ってくる感じです。
次の季節は秋です。
今頃に、秋の終わりの頃を想像するなんて、ちょっと難しいです。
でも実際に、気分も、体も、内臓の状態も、収穫されて食卓に上ってくる食べ物の種類も、ずいぶん変わっていきます。
春から夏への移行は比較的スムーズです。
秋から冬への移行も、結構スムーズにいけます。
今も暖かいけど、もっと暑くなりますよ、とか、今も涼しいけど、もっと寒くなりますよ、といった感じの移行です。
しかし、夏から秋への移行は、いわば「折り返し」のような移行です。
これまで半年ほど、少しずつ、少しずつ、暖かくなってきていたのが、夏の土用を過ぎて、体内や地中にこもった熱気が出切ってしまうと、そのあとは半年ほど、少しずつ、少しずつ、寒くなっていくのです。
まったく違う方向に、季節が折り返していきます。
そして、上空に投げ上げたボールが重力に負けて落ちてくる、その折り返しの瞬間に、ボールがピタリと止まったように見えるのと同様に、折り返しの時に重要な所作は「止まること」です。
日頃の仕事の手を止めて、親戚家族で集まって、墓参りに行く。
お中元や、暑中見舞いや、残暑見舞いを送り合って、季節の変わり目のリマインドをかけあう。
▪️肚(ハラ)は体の土。それは消化の力。
体の中の土は、肚。
「月」+「土」と書いて「肚」となります。
そして五行説において「土」に相当する内臓は「脾」です。
脾の働きは、消化したり、消化したものを体中に分配する働きです。
そして「土」に当たる味は「甘」です。
「脾」は化学精製した砂糖などの強すぎる「甘」味によって弱ります。
そして、自然から生まれた甘味は脾の働きを助けます。
江戸時代には、胃腸が疲れやすい夏の終わりの土用の頃、玄米甘酒などを飲む風習があり、町の辻(交差点)にはおかもちを肩に担いで甘酒を売る「甘酒スタンド」のようなものがあったと言います。
↑炊いたお粥に糀を混ぜて、60度ほどで12時間ほど置けば自家製甘酒の出来上がり。
■夏の土用の養生メモ
・土に対応する内臓
脾・・・食べたものを消化して、全身に分配する力
・土に対応する色と味
黄と甘・・・玄米やひえ、あわなどの全粒穀物。噛むと甘くなるような自然の甘みなど
・土用のおすすめ食
消化を助けるもの・・・梅干し、味噌など
黄色みを帯びて甘みのあるもの・・・沢庵、玄米甘酒、かぼちゃ、芋など
▪️現代の夏土用〜冷えとむくみにご注意を
ここのところ、土も空気も湿気が多く、梅雨というよりはスコール、集中豪雨的なものが増え、気候変動を実感する日々が続いています。
湿気がたまると、環境中も、体内も、気が滞りがちになります。
水や空気の停滞を払ってすっきりさせるためには、消化から排泄までの循環をスムーズにすることが重要です。
本来は適度な運動と太陽のエネルギーと豊かな水によって最も健康的でいられる夏ですが、今となっては運動不足のまま冷房や冷たい飲みものにさらされ、胃腸が弱り、免疫力が低下して、秋にバテる、ということがパターン化しているようです。
消化力が下がることで体力そのものが低下する夏バテを防ぐためには「内臓を冷やさないこと」「消化を助けるためによく噛むこと」「素食にして腹八分目に控えること」などの基本に立ち帰ることが肝要です。
また、内臓の冷えを取る直接的な方法として温熱療法もおすすめです。
こんにゃく湿布や生姜湿布、ハーブボール(薬草ボール)などは、家庭でできる温熱療法の代表です。
※ハーブボール(薬草ボール)・・・何種類ものハーブを布でくるみ、温かく蒸したものを肝臓や腎臓やお腹のあたりに押し当てる自然療法。ハーブの香りと蒸気と熱で免疫力を高める「薬草のお灸」です。
■丑の日は、「う」の付くものを食べるキャンペーン
土用といえば「土用丑の日」と「鰻(うなぎ)」を連想する人は少なくないでしょう。
この「土用丑には鰻」という風習は、江戸時代の学者であり戯作者であった平賀源内が広めたものと言われています。
彼は今で言えば広告マンでありコピーライターでもありました。
奈良時代から「夏痩せには、滋養の多い鰻を食するのがよい」とされていた歴史があります。
この事実を踏まえた源内は、売り上げが落ちてきた魚屋から宣伝の依頼を受けて「それなら人びとが土用の丑の日に鰻を食べるように宣伝を打てばいい」ということを閃きました。
そして、町の魚屋に「土用の丑は鰻」と書かれたのぼりを立てさせて、そのあとに「土用の丑の日に鰻を食べると体にいい」とふれまわったといいます。
また、源内の時代の前から「土用の丑の日は体をこわしやすいので健康に気をつけるように」という通説と共に「土用丑の日は、”う”の字の付く食べ物を食べると良い」という俗信が根付いていた事もあって、うり、うめ、うどんと共に、うなぎを食べる慣習が広まっていったのでした。
▪️現代の夏土用は、梅干し、梅酢、梅醤、梅肉エキスを!
現代において、夏の土用に適した”う”の付くおすすめの食品は梅です。
梅を塩で漬け込んで天日に当てた梅干しや、梅干しを作る際に取れる梅酢、梅を長時間煮込んで作る梅肉エキス、梅干しと生姜と番茶と醤油を合わせて作る梅醤番茶などは昔から、体の酸化を防ぎ、疲れを取り去り、消化を助けるものと言われてきました。
食欲不振の際には、料理に梅肉や梅酢を使うと、唾液や消化液の分泌が促進され、食欲回復の助けにもなります。
梅酢を水やお茶で薄めたドリンクを水筒に入れておけば、胃腸の冷えや弱りを防ぎ、栄養補給も十分出来ます。
今日から始まる夏の土用は、足元の土台を見直し、心身をメンテナンスするチャンスです。
先人の知恵に学びながら、懐かしくて新しい養生キャンペーンをみなさんと創造していけたらと思います。
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