SHINE研修『マット・ビボウと味噌・茜』(1)導入

その話は突然舞い込んできました。

アメリカはオレゴン州のポートランドからマット・ビボウがやってくる。日程に空きがあるから三宅商店でイベントをしてほしい。

これには大いに迷いました。同じ週にはSHINE研修『春分の塩炊き2017』で2日間みっちり作業することは年間行事として決まっていましたし、今でこそ情報リリースしましたが、店主は犬式再始動にむけて大きく舵をきっている。三宅商店として当然最優先はお店のこと。イベントばかりしてもいられません。

と、色々検討した結果、一度はお断りの連絡をしたのですが、アテンド担当者の熱意にもやられイベントを企画することにしました。さて何をしよう。

その前にマット・ビボウって誰?

パーマーカルチャーな街づくりが全米でも注目されているポートランド在住。ファーマーでありながら、アウトドア学校「Mother Earth School」を運営したり、大学などで講師も務めている。日本でも知られているNPO団体「シティリペア」のメンバーでもあります。

シティリペアで一番有名なのは「Intersection Repair(交差点リペア)」。交差点をペンキでペイントしたり、住民が集まれるようなパブリックスペースを設けてしまう。交差点の角に無料のティースタンドがあったり、図書スペースがあったり。

元々は違法なゲリラ行為だったものの、行政にも認められ合法化。今では行政ぐるみで推進されています。他には街角のコンクリートを引っ剥がして都市の生態系を再生したり、私有地に皆が座れるベンチを作ったり。新しい街づくりのあり方、行政との関わり方を提示している最先端の街といっても良いでしょう。

Spectatorの34号『ポートランドの小商い』にあるポートランド市の統計を見てみるとその「最先端」さが伝わるのではないでしょうか

・内外からの移住者数:毎年30,000人

・消費税:なし

・自転車通勤率:8%

・コーヒー愛好者人口:全米一位

・読書人口:全米二位

・マイクロブルワリーの数:153軒

・市民団体の数:3000(15人に一人が何らかの団体に参加している)

・スモールビジネス(従業員100人以下)の割合:50%

・原子力発電所:1993年に停止

さて、マットさん本人についてはというと、以下のブログ記事からの抜粋が分かりやすい。ブログの作者、小野寺愛さんは一般社団法人「そっか」の共同代表であり一般社団法人「エディブル・スクールヤード・ジャパン」のアンバサダーを務めています。


以下、マットさんの発言からの引用です。

「大人は学びを記憶し、知識にする。子どもは遊びや体験を自分の土台にする。子ども時代にできる自分の土台は、一生その人とともにある。だから、パーマカルチャーを子どもに伝えようと思うとき、言葉は少なくていい。大人は、メッセージのすべてを、活動の中に組み込もうと努力する必要がある。」

「「自然の中で育つ」ことと、あとから学校で「自然を学ぶ」ことは大きく違う」

「同じ算数を学ぶのでも、教室と教科書からかけ算を学ぶのと、土壁のオーブン作りに必要な砂と土の比率を計算して、手足を使って練る体験と、どちらが子どもたちの中にしっかり残るかは明白。」

「偉い人たちが弱いのは「見てください。他の地域ではもうこんなに進んでいます(遅れをとってもいいんですか?)」という実例紹介。」

「畑に招待しても横を向くような子どものヤル気を引き出す方法?僕はいつも、サプライズを用意しようとする。淡々としたシンプルな作業を経て、どんなサプライズがでてくるか?発酵仕事なんかは、やりやすい例ですね。」

とにかく実践が伴った活動内容。三宅商店が向かうところと同じ方向性です。

マットさんが岡山にいるのは3月22日から3月25日。その中の3月23日を担当することになった三宅商店。22日は岡山大学地域総合研究センター、24日は神戸でイベントをして25日はくらしのたねさんが都市側の視点でトークセッションを企画している。三宅商店も市内の京橋店でのトークも考えられましたが、それでは全体としてメリハリが出ないし三宅商店らしくもないと思ったので、古民家の事務所でやることに。

何度か日本に来ているマットさんですが、やはり基本的に教えることが多いのかなと思ったのと、過密日程の中で肩の力を抜けるようにと、一緒に味噌を作り、Tシャツを茜染しようということにしました。まずはこちらが知っていることを実践として伝え、そのあと色々意見交換しましょう、と。

事務所のスペースに限りがありスタッフ周りだけで一杯になってしまうこと、イベントをオープンに告知すると事務所だけでなく、集落すらパンクしてしまうので、クローズで行わせていただきました。三宅商店は素人集団ながら発信力はそれなりにあるので、コンテンツとして皆様にお伝えすることに。SHINE(社員)研修番外と勝手に呼ばせていただきます。

というわけで3月22日、マットさんのお迎えも兼ねて岡山市内で行われたトークセッションに参加。岡山大学地域総合研究センターが主催する、大学、行政、市民がともに活動できる場として作った西川アゴラにて、改めてシティリペアが何かを語ってくれました。

交差点のペイントについては、楽しいとかコミュニティの連帯はもちろんのこと行き交う車のスピードが落ちて交通安全に役立っているそう。住民たちが地元をより良くするために自治的に動き出したことが結果に現れています。交差点のペイントに合わせて家の外観を変えてしまった人もいるとか。

印象に残ったのは「1ブロックで出来ることを考察する」という言葉。ブロック(block)とは英語圏で使われる、建物の立ち並ぶ1区画のことです。自分の家の庭先だけが良ければそれで良いという発想では、住み良い社会は形成されない。結果「個人」のためにもなりません。

これはひとつの川の流域に住む者は、その地域のすべての生命たちとともに、共同体を形成しているという「流域の思想」にもつながるなと思いました。川の場合は個々の行政区画でなく、生態系の地域として捉えなければその実態もニーズも把握できない。例えば、上流で川を汚してしまえば、そこに暮らす生態系は崩れ、河口に暮らす漁師にとっては大きな打撃になります。田舎的なパーマカルチャーとアーバン(都市)パーマカルチャーはこうしてリンクしていく。


近所(neighbor)ほど広くもない、1ブロックというある意味都市社会の最小単位にどんな資源があるか。資源とは天然資源やインフラ、道具もそうだし、そこに住む人々とその能力、経験やアイデアもそうです。そしてその住人でニーズを共有することで、向かうべき方向性が見えて来る。この資源を活用すれば、このニーズを満たせるというふうに。その過程において専門家の助けや、トレーニングが必要なこともあるでしょう。資金や時間は十分だろうか?ドネーションなんて手もあります。シティリペアはそうした一連の流れをサポートしています。

ドネーションには金銭的なものもあれば、無償の作業という方法もあります。参加者にとっても、ベンチ作りだったり、菜園作り、コンクリートを剥がしたり、大工仕事をしたりと、新しい技術も学べるし、共通の関心を持つ仲間とも出会えるので、お互いの利益になります。

ポートランドでは毎年6月にこのようなプロジェクトを同時多発的に行います。わずか10日の間に30のプロジェクトが進行する。同時に行うことで、人々が目を向ける機会が増え、一つの大きなイベントと化します。まさにローカルでアナログなメディアハック。週末にはパーティーを開き最終日にはライブ演奏も。街づくりフェスといったところですね。

トークはひと段落し、会食のために場所移動。歩いてすぐの「池田促成青果ラボ」へ。八百屋さんとして店頭販売する傍ら、市内の飲食店にも野菜を卸したり、定期的に農家を招いて対面販売を行ったりと、農家と消費者をつなげるイベントを行なっています。

各方面から面白い人たちがここで合流。マットさんとはこの後いくらでも時間があるのでいろんな人と情報交換しました。地域づくりに関わる人に混じって、カナダから移住してきた椎茸農家のブルースさんや、幕末三代新宗教の一つ黒住教の8代目である黒住宗芳さんだったり濃ゆい面々。

個人的には黒住さんと白熱した宗教トーク(笑)ができ有意義でしたがここでは割愛。近々総本山にお伺いしてみたい。屋根の装飾が岡山ならではの備前焼で出来ていたりと圧巻。三宅商店事務所の古民家の前所有者や近所の人の多くも黒住教らしく、これはちょっとリサーチしないと。

ちょっと脱線しましたが、宴もたけなわ、翌日のイベントもあるのでお先にお暇しまして、マットさんと通訳のマイマイさんを連れいざ三宅商店の事務所へ。狭くて本当に申し訳ないのですが、この日は翌日の予定を考慮して三宅商店に泊まってもらいます。

市内から約一時間。夜の10時を回った頃、事務所に到着。大豆と玄米がマットさん&マイマイさんを出迎える。そして三宅とファーストコンタクト。予想はしてましたが長い夜が始まりました(笑)


続く

0コメント

  • 1000 / 1000