コミュニティとマーケット:地域と治水と経済と

■マーケットのテンポと住民のテンポ

以前、地域経済を研究する方からこんな話を聞いたことがあります。

「商店街がある地域では、商店街がない地域より高齢者の健康度が高い。商店街をおじいさんやおばあさんが通るたびに『いい天気だねー』とか『どこに行ってたんだい?』とか、それぞれの商店主に声をかけられる。そういった、ちょっとした会話を毎日していることが、おじいさんおばあさんの心身にハリを作る。」

オーナーがそのまま店主になり、店頭に立っている個人商店。

商店主は、日々目の前を通っていく老若男女の一人一人をよく覚えていて、挨拶をかわしたりしている。

そしてとりわけ一人暮らしのおじいさんやおばあさんには、健康チェックも兼ねながら声をかけている。

その話を聞いた当時は「なるほど、わかる気がする」と思いすぎて、どんな調査をしたのかまで突っ込んで聞くのを忘れてしまっていましたが、そういうことはある気がすると今も思います。


当時、こんな話も聞きました。

この話は研究者ではなく、80代のおばあさんから。

「大きなショッピングモールが増えて便利なのは、車が運転できたり、まとめ買いして沢山の荷物を運べる人。私達は車も運転できないし、小さな八百屋で毎日ちょっと買い物するみたいな生活が出来たほうがありがたい。大きなお店のレジで小銭をゆっくり払おうとしていると、行列の後ろから舌打ちされたりして、いつもお札でばかり払っているから財布に小銭が溜まっている。」

素早い動きが出来て、重い荷物が持てて、運転ができる人に便利なマーケットがあれば、一方で、動きがスローだったり、重い荷物を持てなかったり、運転が出来ない人にあっているマーケットもあります。


ゆっくり会話が出来るマーケットがあれば、小銭を並べる暇もないマーケットもあります。


一昔前には、引き売りの八百屋さんが足腰の立たなくなったおばあさんの家まで訪ねて野菜や漬物を売っていました。


彼らは一人暮らしの老人の家を回って、声をかけては健康チェックもしていました。


おまわりさんがいなくても、八百屋さんがおまわりしてた世界がそこにありました。


身の回りにどんなマーケットが存在するかが、そのコミュニティに暮らす人達のテンポやリズム、健康に影響を及ぼしています。


■コミュニティとマーケットと政治

以下の写真は、アメリカ西海岸カリフォルニア州セバストポールのコミュニティマーケット。


このマーケットは、コミュニティの住民数人によって共同で営まれている、いわゆる共同出資、共同運営によるマーケットです。

どんな商品をどれくらい置くかも、どんな雰囲気のお店にするかも、どんなイベントやワークショップを開催するかも、自分たちで話し合って決めています。

そこに置かれているものや情報が地域住民の暮らしに影響を及ぼすわけですから、このマーケットの行っていることは、まさに地域自治の一部であり、行政であり政治です。



「Organic Grocery」は「オーガニックな食品」。

そしてこのお店では、オーガニックな食品というだけでなく、なるべく顔を知っている、地域の人が作った食品を、優先的に置くようにしています。

とりわけ生鮮食品、野菜や果物は、長期保存が難しく、輸送にもエネルギーがかかるため(冷凍や冷蔵が必要ですし)「地元のものを地元で食べる」事を大切にしています。



そして、お店の一角には「Feed A Local Family」と書かれた看板とボックスが置いてあります。



「地域に住むファミリーに食べ物を分けましょう。家の中にあって余っている食べ物があったら、この中に入れてくださいね。」という呼びかけがされていて、このボックスに入れられた食べ物は、食べ物を買うお金がない人達に無償で配られています。


安価な食品ほど添加物や化学薬品が多く含まれており、それらを食べ続けている貧困層に深刻な栄養の偏りが出ている現状があります。


こういった状況に向き合い「お金がない人はオーガニックな食品にアクセスできない」という状況を変えるために、このマーケットだけでなく、住民主導のマーケットやファームにおいて、余剰の食べ物を無償で配る様々な取り組みがなされています。


このマーケットは、このお店に来て購買をしている人だけでない地域住民の暮らしも視野に入れながら経営をしています。



店頭にずらりと並ぶスパイスは全て固定種・在来種(英語ではHeirloomと言います)で、遺伝子組み換え食品は受け入れないという表示がはっきり記されています。



店の一角には種の販売コーナーもあり、栽培法をまとめた本や雑誌、種取りをしている農家さんの野菜の販売や、種を地域住民の手で管理する事の大切さを伝えるイベントの企画などもされています。


何かを売るだけでなく、皆でどんな暮らしをしていきたいか、どんなコミュニティにしていきたいかを意思表示する場であり、それらのテーマについて語り合ったり、情報を交換する場として、マーケットが存在しています。


■ダムネーション✕サトケン✕三宅商店

経済という言葉の語源は「経世済民」という流通や行政、土木・治水をも含んだ言葉。

経済を考えることと、政治を考えることと、治水を考えることは結びついています。


8月30日に行われるイベントは、経済、政治、治水などのテーマからコミュニティのあり方を見つめ直す場になっています。

当日は、アメリカ西海岸で住民主導で地域を変え、行政を動かしてきた一人、マット・ビボウが来場し、地元の人気店が集まるマーケットが会場を賑やかします。


「吉備中央町 河川の再生と、現代の村づくり」

・ダムの役割とは?

・自然環境の中での人間の役割とは?

・そもそもパーマカルチャーってなんだ?

・コミュニティデザインとは?


映画鑑賞と対談を通して、これからの暮らし方や“社会デザイン”を模索し、地域交流の場所作りを目指します。


コミュニティとマーケットと治水。


分かつことのできないこれらのテーマを分かち合う貴重な機会です。


ふるってご参加くださいませ◎


text by 冨田貴史

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